歌い始める前、俺は理絵と少し距離を取った。
そして、理絵の方を見つめながら歌い始める。
歌詞はすべて頭に入っている。
だから画面を見る必要なんてなかった。
俺の視線は、ずっと理絵だけを追っていた。
やがて一番が終わり、間奏に入る。
そのタイミングで、俺はゆっくりと理絵の隣へ移動した。
胸の鼓動が少しずつ速くなる。
再び歌が始まる。
右手にはマイク。
そして左手を、そっと理絵の肩の後ろへ伸ばした。
理絵は歌詞を見つめたまま、まだ俺の動きには気付いていない。
この一瞬で、二人の距離は大きく変わろうとしていた──。
▶ 第19話へ続く…

コメント